テレワークで低下した「社員とのエンゲージメント」回復のための施策とは!?事例紹介

テレワーク,働き方

コロナ禍でテレワークが浸透しています。テレワークは、社員のワークライフバランスの確保や、交通費や賃料などのコストカット、組織の多様性の実現など多くのメリットがあります。しかし一方で、デメリットを感じているという声も聞かれます。それは「社員のエンゲージメントの低下」。ある調査では、テレワークで会社の方向性を社員に伝えにくくなり、それによって社員とのエンゲージメント低下を感じている企業が多いという結果が出ています。

今回は、テレワークによるエンゲージメント低下の原因。そして、それを低下させないための、社員とのコミュニケーション手法や、テレワーク環境にあっても、会社の方針をしっかりと組織に浸透させるための実際の施策事例について詳しくご紹介します。

テレワークによって社員とのエンゲージメントが低下

総務専門誌「月刊総務」が、全国の総務担当者を対象に、モチベーションに関する調査(2020年11月)を実施しました。その中で、テレワークを実施している企業に対し「テレワークの中で、会社の方向性を社員に伝えることができていると思いますか」と質問したところ、

◎やや伝えにくくなった…63.8%

◎とても伝えにくくなった…15.3%

と、「伝えにくくなった」の合計が約8割という結果となりました。さらに、会社の方向性を伝えにくくなったことにより「社員のエンゲージメントに変化はありますか」と質問したところ、

◎とても低下している…7.1%

◎やや低下している…88.6%

という結果となり、「低下している」とする企業が合わせて95%以上にものぼっています。

そのように感じる理由としては、「若手の離職が多くなった」「次年度の方針説明をしても無関心」「受け身の社員が増加した」などが挙げられています。

【引用】テレワークで会社の方向性を伝えにくくなったが8割。社員のエンゲージメント低下を実感/月刊総務

なぜエンゲージメントが低下したのか

そもそも「エンゲージメント」とは、会社に対する従業員の「愛着心」を指す言葉です。これが低下してしまうと、仕事に対するモチベーションが保てず、生産性が低下したり、離職する社員が増えたりするデメリットがあります。結果的に、会社の業績にも大きな影響を与えてしまいます。

それでは、なぜテレワークでエンゲージメントが低下してしまうのでしょうか。

実際に筆者も、経営者の方々にインタビューをするなかで、「コロナ禍で、離職率が大幅にアップしてしまった」「現場まで理念が浸透していないと感じるようになった」という声を少なからず聞いています。コロナ禍による業績の低下よりも、むしろそちらの方に気を揉んでいるトップが多い印象を受けました。

その理由を深堀りしてみると、

◎朝礼、面談、懇親会など、社長と社員との直接の会話が無くなり「理念」「方針」が伝わらない

◎社員同士が「雑談」する機会が減ってしまい、横のつながりが希薄になった

などの背景が見えてきました。結果、「会社や自分の将来に不安を感じる」「帰属意識が薄れた」などの理由で退職する人が増えてしまったようです。

お話を聴いた経営者はみなさん「社員のことを大切に」と考える経営者の方々でした。それでも、このような事態に陥ってしまう現状。「直接伝えることができない」ということの、影響の大きさが分かります。

コミュニケーション不足は「テレワークの課題」

このコミュニケーション不足は、厚生労働省が実施した調査結果にも顕著に表れています。テレワークの労務管理等に関する実態調査(2020年11月)によると、企業が「テレワークで感じた課題」として、「できる業務が限られている(63.8%)」に続き、

◎従業員同士の間でコミュニケーションが取りづらい…48.4%

が2位となりました。半分近くの企業が、テレワークにおける「コミュニケーション」に課題を感じていることが分かります。

【参考】厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会(第4回)」テレワークの労務管理等に関する実態調査【速報版】(P40)

エンゲージメントを向上させるための取り組み事例

テレワークでコミュニケーションが希薄となり、「エンゲージメントが下がった」と感じる企業が多いなかで、それを取り戻そうとユニークな取り組みを進める企業もあります。ここでは、3つの事例をご紹介します。

株式会社ヌーラボ/人間関係改善の多彩なアプローチでエンゲージメント向上

タスク管理ツール「backlog」などを提供する、株式会社ヌーラボ(福岡市)では、コロナ禍でテレワークを中心とした働き方に移行した後、従業員エンゲージメント調査を実施しました。

すると、コロナ禍以前に実施した時よりもすべての項目において数値が向上し「周囲に仕事を探している人がいたら、ヌーラボを働く場所として勧めたいと思うか」という問いについては、前回比+43.1%と大幅に上昇しています。

「人間関係への満足度」についても、数値が大きく改善していました。同社では、コロナ禍における人間関係改善の取り組みとして、すごろく形式で「お題」について複数人で会話する「すごろくトーク」。1対1で雑談する時間を設ける「スモールトーク」。そしてVRデバイスを全員に貸与してアバターでの雑談を促進する取り組みなど、ユニークで多様なアプローチを仕掛けていました。この結果は、それらの施策が功を奏した形です。

また、調査の中で最もポイントが上昇していたのは「働き方や職場環境への満足度」でした。その要因と考えられる取り組みに「住宅勤務補助手当」があります。これは、月額15,000円を社員に継続して支給するというもの。自宅で業務を行う際に増えると思われる「光熱費」や「通信費」などをケアする趣旨のもので、その補助を何に使ったのかは申告不要です。

株式会社セールスフォース・ドットコムなどが実施した調査(2021年)において「テレワークで生産性が向上した」と感じている人は、同時に「エンゲージメントも向上している」という結果が出ています。そして、その生産性向上に最も大きな影響を及ぼしているのが「業務のテレワーク対応」や「自宅の業務環境」でした。つまり、テレワーク環境の整備がエンゲージメント向上につながるという結果が、数値として表れているのです。

今回のヌーラボの住宅勤務補助手当も、テレワーク環境をサポートするもので、それが結果的にエンゲージメントに繋がっていると言えるでしょう。

【参考】ヌーラボ、コロナ禍で従業員エンゲージメントが大幅に向上/nulab

【参考】有識者が徹底討論!テレワークでも従業員エンゲージメントを高める秘訣を探る/HR NOTE

株式会社ランクアップ/朝礼は情報共有ではなく「チームビルディング」

オリジナル化粧品ブランド「マナラ」などを手がける株式会社ランクアップ(東京都)では、2020年よりテレワークを導入しました。先ほどご紹介したように、テレワークにおける一般的な企業課題は「社員のコミュニケーション不足」にあります。そして、それがエンゲージメントの低下にも繋がっています。

しかし同社では、オンラインでも社員間のコミュニケーションを促進しようと、さまざまなイベントを開催しています。

例えば、毎朝実施される「朝礼」はただの情報共有ではなく、チームビルディングを目的としています。朝礼当番の社員が、同社の行動指針などについて1分間スピーチ。また、朝礼の最後には、オンラインであっても全員が声を出す「発声」を実施し、受け身で終わらない仕組みづくりをしています。この時、全員の画面は基本的に「オン」。対面ではなくとも、笑顔で顔を見て話を聴くという姿勢を大切にしています。

また、同社では以前から1人2,000円の経費支援をし「部活動」を推奨。コロナ禍ではそれがオンラインで実施されており「ワインを一緒に飲みながら語る会」「一緒にパンを作る会」など、距離が離れていても、社員同士の密なコミュニケーションが実現しています。

同社の行動指針を体現している人に対して、ITツールを活用し「愛」のメッセージを贈り合う仕組みも整備。社員一人ひとりが、相手の行動を見て、月末に感謝の気持ちを伝える。それを、労務スタッフがリマインドするなど、感謝を贈り合う文化を意図的に醸成しています。と同時に、テレワークで伝わりづらくなったと言われる「理念」「行動指針」などをしっかりと組織に浸透させる狙いもあると考えられます。

これらの施策が功を奏し、同社ではオンラインでもコミュニケーション不足を感じることなく、業務も皆でスピード感をもって進められているそうです。

【参考】コロナ禍で社内コミュニケーションの希薄化が深刻 社内オンラインイベント:社員に向けた感謝祭をオンライン開催 オンラインでも社員コミュニケーションを生み出すランクアップ独自の取り組み/PR TIMES

JINホールディングス/世界のスタッフとつながるオンライン決起会

メガネチェーン「JINS(ジンズ)」を展開する株式会社ジンズホールディングス(東京都)では、それまでリアル開催されていた決起会をオンライン化し「JINS KEKKIKAI2020」として開催しました。本社に特設スタジオを設け、日本国内だけではなく、中国、香港、台湾、アメリカ、フィリピンにもライブ配信し、世界の従業員と時間を共有しました。

同イベントでは、ビジョンの実現に向けて活躍した店舗や人の表彰式が実施され、参加者はチャットで多くのコメントを書き込みました。さらに、今期の振り返り、来期の方針を代表自らがプレゼンしました。その際も、チャットで質問やコメントが書き込めるような仕組みになっており、経営陣がその場で回答。双方向のやりとりが行われました。

このイベントは、世界中のスタッフに「つながっている」という実感を持たせることが目的。リアル開催の場合の参加者は500名ほどのところ、オンライン開催では1,000名が同時視聴でき、アーカイブも含めると5,000名のスタッフが視聴可能なイベントとなりました。

コロナ禍でリアルコミュニケーションが取れず、理念が浸透しないと悩む企業が多いなか、ライブ感をもって直接経営陣がメッセージを発信するという画期的な取り組み。この決起会の社員アンケートの満足度は「決起会史上最高」となりました。

【参考】初のオンライン開催。JINS KEKKIKAI2020の裏側をレポート!/JINS People

【参考】オンライン社内イベントでエンゲージメントアップ!JINS KEKKIKAI 2020(グローバル開催)

オンラインでも、人との繋がりが感じられる施策を

いかがでしたか?今回この記事を書き進めるなかで、「テレワークとエンゲージメント」の関係性をテーマとした講演や調査結果を数多く見つけました。それだけ、社会的な関心が高い事案なのだろうと思います。

私も最近、対面で会話することの大切さに改めて気付かされました。ライターの仕事はコロナ禍で多数がオンラインに移行しましたが、先日久しぶりに直接取材に伺いました。オンライン取材では所用時間が決まっており、あらかじめ用意された質問以外の会話をする時間がほとんどありません。また、同時に複数人が話すことも難しいため、一方通行のコミュニケーションに終始していました。しかし、直接お会いすると、会話のキャッチボールや雑談が生まれ、相手の雰囲気や感情なども読みとることができ「理解度が格段に上がる」と感じました。これは、社内コミュニケーションでも同じことが言えると思います。

オンラインでも温かみや人の繋がりが感じられるような施策を通し、より社員と会社、また社員同士のコミュニケーションを深めていく必要性があるのでは、と感じました。

この記事を書いたひと

三神早耶(みかみさや)

大学卒業後、広告代理店に入社。企画営業と制作進行管理を兼務。その後、出版社でコンサルティング営業、国立大学でeラーニングツールの運営や広報サポートなどを担当し、2016年よりフリーライターに。経営者向けウェブメディア等で、経営者インタビュー、組織改革、DXなどについて取材・執筆。