人手不足は深刻化…日本の【離職率】と退職の本音を徹底分析!離職率低下のためにできることとは?

働き方

人手不足が叫ばれて久しい、日本。近年では「人手不足倒産」も増えてきています。それでは、実際に日本でどのくらいの人が辞めていて、どの程度人が足りていないのでしょうか…。

今回は、日本の労働力不足や採用難など、「離職率」が注目される背景や、日本が抱える離職率問題について調査。その上で、転職した人の「本当の退職理由」は何なのかについても徹底分析しました。離職率を下げるために、いま企業は何をすべきなのか…。詳しくご紹介します。

「人が足りない」労働力不足・採用難の日本

今回のテーマは「離職率」です。本題に入る前に、近年離職率が注目される背景となっている「労働力不足」「採用難」について見ていきましょう。

「離職率」注目の背景には、採用難も

まずは、日本の労働力人口の推移です。「労働力人口」とは、15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口のこと。女性活躍推進や定年引き上げなどによる影響で一時は増加したものの、ここ数年は減少傾向です。

【出典】労働力調査(基本集計)2021年平均結果/総務省統計局

働く人が減っている一方、「有効求人倍率」は上がっています。有効求人倍率とは、企業の求人数を、求職者(ハローワーク登録者)で割った数値のこと。これが、2022年の10月の全国平均で1.35倍となっています。つまり1人の求職者に対して1件以上の求人がある状態。完全に「売り手市場」だと言えます。
リクルートワークス研究所の調査では、2023年卒の大卒求人倍率は1.58倍と、その数値はさらに上昇。とにかく、人の採用が厳しい時代になっているのです。

【出典】職業紹介 都道府県別友好求人倍率/独立行政法人 労働政策研究・研修機構

【出典】第39回ワークス大卒求人倍率調査(2023年卒)/リクルートワークス研究所

人手不足は経営にも大きな影響

帝国データバンクによると、「自社が人手不足である」と感じている企業は2022年10月の調査で51.1%となっており、半数を上回っています。

「人手不足」は単なる企業課題ではなく、経営そのものを脅かす大きなリスクとなっています。実際に、2022年1月〜7月の「人手不足倒産」は76件となっており、前年の59件を大きく上回りました。人材がいなければ、サービスの提供や、製品を作ることもできないのです。

人材を確保するためには「既存の人材の離職を防ぐ」「新たな人材を採用する」の、大きく2つの手段があると思います。

ただ、先述のように人の採用がそもそも厳しい環境にあるということ。そして、新たな人材を採用するとなると、採用コストや、教育のための時間や人件費などもかかります。それならば、既に自社の業務に関する知識や経験を持つ既存の社員の離職を防ぐ方が、企業メリットも大きく、生産性の向上にも繋がります。

【出典】人手不足に対する企業の動向調査(2022年10月)/帝国データバンク

【出典】人手不足に対する企業の動向調査(2022年7月)/帝国データバンク

日本の離職率の現在地

「社員の離職を減らしたい」そう悩む経営者の方も多いと思います。ここで、日本の「離職率」について詳しく見ていきましょう。

宿泊業・飲食サービス業が最も高い

労働力不足の中、日本の平均離職率は令和3年度で13.9%となっています。産業別に見てみると、「宿泊業・飲食サービス業」が最も高く25.6%という数値に。

昨年、宿泊業の経営者の方に取材をしましたが、やはりコロナの感染状況に振り回され、若手社員の退職が後を絶たないと頭を抱えていらっしゃいました。感染拡大で休業が続いたかと思えば、国の施策などで繁忙期が続く。落ち着いたかと思えば、再び休業に追い込まれるなど、まさにジェットコースターのような日々だそう。接客が好きで入社した若者たちも、途中で心が折れてしまい、他業種に転職していく人も少なく無いそうです。

【出典】令和3年雇用動向調査結果の概況/厚生労働省

大卒の3年以内離職率は、小規模企業で5割

次に、新卒で入社した人の「就職後3年以内」の離職率についても見てみましょう。令和2年度の厚生労働省の調査によると、新規高卒就職者で36.9%、新規大卒就職者で31.2%という結果となりました。約3人に1人が、3年以内に退職してしまうという現実があるようです。

特に、5人未満の企業では56.3%、5〜29人の事業所規模では49.4%と、小規模企業では約2人に1人が退職している計算に…。新卒採用にかかる1人あたりのコストは100万円近いとも言われており、若手の離職が続いてしまうことは、中小企業にとって大きな痛手となっているでしょう。

【出典】新規学卒就職者の離職状況を公表します/厚生労働省

転職した人の「本当の退職理由」

そもそも、人はなぜ「退職」を選んでしまうのでしょうか。

退職する際、企業に対して本音を伝えられない人も少なくないと思います。筆者も過去に、表向き「結婚して家事に専念します」と伝えて退職したものの、実際は「労働時間が長すぎる」「正当な評価が受けられない」という明確な理由を持っていました。

人材大手エン・ジャパンが、1万人以上の「エン転職」ユーザーにヒアリングした結果を見てみましょう。退職経験があると回答した人に「報告する際に、退職する本当の理由を伝えましたか」という問いに対し、「伝えなかった」という人は、全体の43%にものぼりました。

そして、その「本当の理由」として

◎職場の人間関係が悪い…35%

◎給与が低い…34%

◎会社の将来性に不安を感じた…28%

◎社風・風土が合わない…24%

◎評価・人事制度に不満があった…22%

が上位となっています。働いた経験がある方であれば、上記の理由のどれかを心に抱いたこともあるのではないでしょうか?

【出典】『エン転職』1万人アンケート(2022年10月)/エン・ジャパン

社員の離職を防ぐために、今できること

それでは、これらの退職理由を払拭し、社員とのエンゲージメントを向上させて離職を防ぐには、企業として何ができるのでしょうか。

社内コミュニケーションの改善

今回「退職理由」についてさまざまな調査結果を調べましたが、どの調査を見ても上位に挙がっていたのが「人間関係」です。「社内の雰囲気が悪い」「社員同士のトラブルが頻発」など、組織課題が起こる背景にはどのような要因があるのでしょうか。その多くは「コミュニケーション不足」であると言えます。

「社員同士が会話していない」「本音が言えない環境(心理的安全性が低い)」「部門間で情報共有ができておらず、対立している」「風通しが悪い」など、コミュニケーション不足は多くの歪みを生みます。

これらを解決するために、例えば「1on1ミーティング」を取り入れ、定期的に社員一人ひとりの声を聴く姿勢を見せる。また、個人が持っている情報を「見える化」するために、グループウェアなどのツールを導入する。社員間の風通しを良くするため、社内SNSを導入する。など、さまざまな方法があります。

ポイントなのは、会社側が社員の声を聴こうとしている姿勢を見せること。そして、社内の情報を「見える化」し組織の透明度を高めることにあると考えられます。

人事評価制度の見直し

評価への不満を分解すると、「仕事量や勤務時間と、給与が見合っていない」「仕事内容や結果が、評価に繋がらない」など、一言では言い表せない思いがあるはず。特に、日本型人事制度、いわゆる年功序列などの風土が残っている場合に起こりやすいと言われています。

例えば、若手社員が結果を残しているのに、「社歴が長い」というだけで成果を出さないベテラン社員が昇格する…など、不明瞭な評価が横行している場合、会社の未来を担う優秀な社員を手放すことになりかねません。

まずは、自社の経営理念やビジョンに沿って評価基準を設け、そこに合わせた評価制度を作ることが大切です。会社として目指すところ、そのために必要な行動や結果、それに見合った報酬…と根拠を持って論理的に制度を策定し、それをしっかり社員に説明することによって、皆が納得のいく評価制度になるはずです。

理念・ビジョンを明確にし、浸透させる

「会社の将来性に不安がある」と感じる人は、コロナ禍で増えているとも言われています。しかし、そもそも会社がいまどこに向かって進んでいるのかが分からなければ、不安になるのも仕方ありません。「何のために経営しているのか」が明確でないと、社員も「自分は今何のために仕事をしているのか」が見えないのです。毎日「何となく」仕事をこなすようになれば、モチベーションも上がらず、小さなきっかけですぐに離職してしまいます。

まずは、経営理念を明確にし、それを社員一人ひとりに浸透させることが重要です。その理念を達成するための「行動指針」まで策定すると、より理念への理解が深まるとともに、判断に迷った時、立ち返る場所を作ることもできます。

採用時の価値観の擦り合わせを重視

転職者の本音にもありましたが「社風・風土が合わない」も、離職理由としてよく耳にします。ただ、これは入社前にしっかりと社風を伝えきれていなかった可能性もあります。近年増えている「オンライン面談」などの影響もあるのかも知れません。

風土を伝えるためには、例えば必ず来社してもらう、面接官だけでなく社員とも会話してもらう、インターンシップのような形で、実際に働く機会を設けるなど、入社後ギャップが起きないような対策が必要でしょう。

また、経営者インタビューで「経営理念に共感し入社した社員は、辞めにくい」とお聞きすることがよくあります。つまり、「経営理念」という部分で企業側と人材が価値観を擦り合わせているのです。しっかり理念を設定し、採用時にも伝え続けることで、ギャップを防ぐだけでなく、エンゲージメントの高い社員の採用にも繋がるようです。

離職率低下のカギは「現場の声に耳を傾けること」

いかがでしたか?私もこれまで多くの経営者の方のお話を聞きましたが、大半の方が過去に「離職」に関する課題を抱えていらっしゃいました。トップダウン型の組織だった、会社の方針転換に反発があった、長時間労働が横行していた、評価制度が日本型だった…など、その理由はさまざま。
ただ、どの理由に対する解決法も、ベースにあるのは「現場の社員の声を聴くこと」にありました。一人ひとりの考えに耳を傾け、トップダウンではなくボトムアップで組織運営を進めようとする姿勢が見えると、社員の方々とのエンゲージメントも回復し、離職率が低下するようです。企業の経営資源の中で最も重要な「ヒト」。まずは、その「声」を大切にしたいですね。

この記事を書いたひと

三神早耶(みかみさや)

大学卒業後、広告代理店に入社。企画営業と制作進行管理を兼務。その後、出版社でコンサルティング営業、国立大学でeラーニングツールの運営や広報サポートなどを担当し、2016年よりフリーライターに。経営者向けウェブメディア等で、経営者インタビュー、組織改革、DXなどについて取材・執筆。